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仙台地方裁判所 昭和32年(行)4号 判決 1965年2月24日

原告 高橋祐幸

被告 建設大臣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、原告の主張

(請求の趣旨)

「被告は原告に対し、金五六四万九、四一〇円およびこれに対する昭和三二年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

(請求の原因)

一、原告は、宮城県玉造郡鳴子町字下蟹沢三九番の一七、宅地四五〇坪(公簿面積、以下、本件土地という。)を所有していたところ、訴外宮城県収用委員会は、昭和三二年三月一一日起業者を被告、相手方を原告とする北上川総合開発事業鳴子ダム建設用地の収用についての裁決申請事件につき、「本件土地を右事業のため収用するものとし、その損失補償額は本件土地を実測四五二坪四勺とみなし時価を坪当り金三、〇〇〇円として合計金一三五万六、一二〇円と定め、その余の原告の請求にかかる土地造成費並びに賃貸料の損失に関する補償を認めない、」旨の裁決をし、右裁決書謄本は同月一五日原告に送達せられた。

二、しかし、右裁決が土地造成費並びに賃貸料の損失に関する補償を認めなかつたのは、つぎの理由により不当である。

すなわち、

(一) 本件土地は、訴外荒雄嶽鉱業株式会社(以下、訴外会社という。)の水路式発電所の敷地として使用されて来たのであるが、およそ水路式発電所の建設には、1.水圧鉄管直水路の斜面地と2.タービン、発電機等を据つけこれに建物を建てる堅固な地盤と、3.これに続く排水路に要する平面地等の地形は絶対に必要なのである。そこで訴外会社が右発電所の建設にあたつてこれに要する敷地を四五〇坪とし、これを宅地として分筆し、当時荒雄川本流に対し廊下状の断崖地形であつたものを約一万立方米の表土および岩盤を削除し、右発電所敷地に適合する土地として形成したのが本件土地である。しかして、この土地造成費は、時価において一立方米あたり金二〇〇〇円として合計金二〇〇万円に相当するところ、これは本件土地の収用によつて原告の受ける損失というべきであるから、被告は、本件土地の補償(前記裁決の金一三五万六、一二〇円)とは別に右損失をも補償する義務がある。

(二) また原告は、訴外会社に対し、本件土地を発電所敷地用地として期間は該発電所の存続する間、賃料一ケ年金一八万円の約で賃貸していたのであるが、本件収用により、右賃貸借契約は消滅した。そして、右発電所の残耐用年数は起業者たる被告と訴外会社との間に三五年間と合意されたので、その間原告の右賃料の得べかりし利益は、前記年収入額金一八万円に右年数を乗じた額からホフマン式計算法により年五分の利率による中間利息を控除した金三六四万九、四一〇円となるはずである。これも本件収用によつて原告の受けた損失というべきであるから、被告は土地収用法第八八条により右損失をも補償する義務がある。

三、よつて、原告は、被告に対し、本件土地価格とは別に前項の(一)記載の土地造成費および(二)記載の賃貸料の損失の合計金五六四万九、四一〇円およびこれに対し本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和三二年六月二一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二被告の主張

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨の判決を求める。

(請求の原因に対する答弁)

原告の請求原因一項の事実は認める。同二項の事実中、水路式発電所の敷地として使用される土地が原告主張のような条件を満たしたものでなければならないこと、本件土地は、以前荒雄川本流に対し、廊下状の断崖地形になつていて、そのままでは発電所敷地として使用しえなかつたが、訴外会社が発電所を建設するにあたつて、発電所敷地に適合する土地に造成したこと、右訴外会社が本件土地を使用していたことは認めるが、本件土地の賃貸借の事実は知らない、その余の事実は否認する。

なお、土地の収用により所有者に補償すべき損失は特別の事情のない限り時価相当額であつて、所有者の投じた費用額ではない。したがつて時価相当額に加えて、土地造成費の補償を求める原告の請求は失当である。のみならず、土地造成費は原告が支出したのではないから、これを原告に補償すべきいわれはない。また、土地の時価と将来の賃貸料の双方について補償するのは二重補償となるから、賃貸料の損失を求める請求も失当である。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告主張のように、被告は原告に対し、本件土地の時価相当額のほかに土地造成費および賃貸料の得べかりし収入の損失を補償すべきかどうかを考える。

土地収用により所有者に補償すべき損失は、通常受ける損失で、特別な事情のない限り裁決当時の当該土地の交換価格によるべきであるところ、右交換価格はその現況における土地の地理、地形等にもとづきこれが一般的利用方法その他諸般の状況により定まるものである。したがつて、仮に原告主張のように、本件土地は以前、一般的利用価値の低い山林であつたが、そこに巨額の資本が投下された結果、一般的利用価値の高い発電所敷地に造成されたものであつたとすれば、本件土地の交換価格は、造成され一般的利用価値の増大した土地としての交換価格が定められることになる。換言するならば、本件土地に対する右のような投下資本は本件土地の一般的利用価値を増大させた限度で、本件土地に化体され、本件土地の交換価格決定の際にそれも含めての評価を受けているのであるから、これを本件土地と離して独立に補償の対象にすべきものではないというべきである。

また、仮に原告が本件土地からその主張のような賃料の収入を得ていたとしても、それが一般的収益とみられる限度において、本件土地の交換価格の中に、右収益ある土地として既に考慮されているべきであるから、原告主張のような将来の賃貸料の得べかりし収入を失う損失を、本件土地の時価相当額とは別に、補償の対象にしなければならない合理的理由もない。

そして、成立に争いない甲第二号証によると、宮城県収用委員会の裁決も、本件土地の現況が宅地、山林、原野、川欠の部分に分れているとして各現況に応じた評価をすべきであるとの被告の主張に対し、本件土地は発電所の敷地として全部同一目的に供されているものと認め、これを発電所敷地一体として評価したことが窺える。

三、そうだとすると、宮城県収用委員会の裁決が、本件収用による原告の受ける損失補償額を、本件土地の時価相当額のみであるとしたことは、その評価が、相当であるかどうかは別として正当であるというべく、したがつて原告の主張は、右の時価相当額の評価の過少であることの理由として主張するのであればともかく、そうでないことは本件弁論の経過に照らし明らかであるから、いずれも爾余の点を判断するまでもなく、失当といわなければならない。

よつて、原告の請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 佐々木泉 佐藤歳二)

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